柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中！（日曜・祝日除く）
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。

【第191回】柚月裕子『誓いの証言』

　代表の平尾雄二は、高齢のためいまは介護施設に入居していて、事務所にはほとんど顔を出さないという。身体が弱っているとはいえ、まだ頭はしっかりしていることから、本人が代表を退くことを拒み、いまも事務所の代表として名を連ねているが、実質は清水が事務所を仕切っているという。
　佐方は端的に、いま自分が久保の弁護人を請け負っている経緯を伝えた。久保は、相手に被害届を出されるようなことはしていない、と訴えている。自分もそれを信じて、ふたりに接点がないか調べていたが、久保が香川にいたときにかかわっていたことがわかった。ついては、当時、久保が扱っていた案件について話を聞かせてほしい、と頼んだ。
　清水は、ユウカが久保を訴えた事件を知っていた。
　マスコミは連日、現役弁護士が薬を使って女性を襲った、と報道していた。顔写真は公表されておらず、名前もＡ氏としか出ていない。しかし、ＳＮＳでユウカが発信した名前はインターネットを介して広がり、ちょっと調べれば久保の名前はすぐに出てくるまでになっていた。
　清水も、自分と同じく弁護士を生業にしている者が起こした事件に関心を寄せて調べていた。そこで久保の名前を見つけたが、自分が知っている久保がそんな事件を起こすということが信じられず、半信半疑だったという。

（つづく）

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